池井戸潤「オレたちバブル入行組」読了
半沢直樹のドラマは見てませんが、あれだけ盛り上がったドラマの原作の方が気になって読んでみました。
池井戸潤の作品はこの前に「空飛ぶタイヤ」を読みましたが、その時、ある種の違和感を感じていました。なんというか、まともな人間であれば世間的に認められない事をしている自分を心の底から正当化できるほど強くなくて、悪事を働く方にもやはり葛藤があるはずですが、そういった観点がほとんど描かれていないことにとても違和感を覚えたのです。詳しくは読後感のエントリに書いてあるので読んでみてください。
半沢直樹のドラマは見ていないのですが、繰り返されるCMや話題からみて、その原作たる「オレたちバブル入行組」も勧善懲悪ものの、ある意味一方的な書き方に終始しているのかなと、読むまでは思っていました。しかし、この作品は「空飛ぶタイヤ」で感じた違和感をうまくぬぐってくれるような作品でした。
この本のストーリーを簡単にいってしまえば、上司の背任行為について部下に責任をかぶせようとするも、部下(半沢直樹)が抵抗し、逆に弱点を突かれて、上司失脚、部下昇進、みたいな話ですが、上司の逡巡する心の様を結構ちゃんと描いていて、人間臭さがあります。その上で、半沢直樹の痛快な立ち振る舞いがすかっとしてて、読んでて気持ちいいですね。
まだ半沢直樹に触れていない方はぜひ。内容もそれほど複雑でありませんので、一晩で読めますよ。
青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか」読了
サイモン・シンというサイエンスライターがいます。有名な著作としては数学界の難問に挑んだ数学者を描き出した「フェルマーの最終定理」や軍用から始まり今ではインターネットや様々な分野で活用されている暗号化の歴史を紐解いた「暗号解読」というものがあります。
宇宙はなぜこのような宇宙なのか――人間原理と宇宙論 (講談社現代新書)
- 作者: 青木薫
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2013/07/18
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冲方丁「天地明察」読了
歴史の綴り方もさまざま。読みやすさ重視もあり。
歴史小説はさまざまあれど、読みやすさを主眼に置けば右に出るものはないのではないでしょうか。
- 作者: 冲方丁
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読みやすさというのは文言自体が平易なものかどうかというのもありますが、読み手を乗せる展開やリズムというのもその要素に入ってくると思います。この「天地明察」はなじみにくい暦を、しかも徳川時代の暦を、予備知識無くともスムーズにストーリに溶け込ませている。そもそも主題なのであたりまえと言えば当たり前ですが、肝心の暦を算出する理論の詳細をあえて書かないことで読み手にそのストレスを与えないようにしている配慮がうかがえます。
あえて書かない、というのは結構難しいことで、書き手としては正確を期することを考えればどんどん詳細に書きたくなってしまうもの。それをどこまで書いてどこまで書かないかを選別するラインというのはセンスが問われるところですが、もともとライトノベルを書いていたという著者はおそらく調べ上げた膨大な知識量から読み手を意識して書くべき知識を選別してストーリーを組んでいるのが良くわかります。
池井戸潤「空飛ぶタイヤ」読了
半沢直樹は見ていなかったんですが、ここ数年すごく目につく作家だったのでアマゾンで好評価のこの作品をkindleで読みました。
この話はもう善悪がはっきりしている展開がまさに勧善懲悪を是とする水戸黄門的なストーリー展開でして、読み終えた後はスカッとして気持ちいい。 ミステリー的な要素は無いですが、次第に明らかになっていく不正とそれを暴くために奔走する様々な人間模様とその背後にある人間ドラマがとても身につまされる話で、共感を呼びます。まったくすべて同じではないけれども、企業内部の一種独特な論理は自分にとってもうなずけるところ多数。この作家がサラリーマン受けするのも至極当然のことのように思われます。
でも、不正をする側の人間の内面があまり描かれていないのがちょっと片手落ちの気がするのは自分だけでしょうか。
この小説は三菱自動車・三菱ふそうのリコール隠しを題材として描かれているのですが、リコールを隠した人々にだってさまざまな懊悩や苦悶があったはず。誰だって悪いことやっている自分を心の底から正当化できるほど自分は欺けないと思うんですよ。でもここに出てくる不正を行う人たちからはそういった雰囲気が読み取れないというか、あまりにも「悪」過ぎる展開に一歩引いてみると違和感を感じてしまう気もします。
とはいえ、エンターテイメントとしては非常に良作。水戸黄門でいえば印籠が出てくるあたりはホントに快哉ものです。
純粋にエンターテインメントとして不正を懲らしめるような作品を欲する人はぜひ読んでみてください。掛け値なしに面白いっすよ。
横山秀夫「64(ロクヨン)」読了
東野圭吾の作品に重厚さをプラスさせたような、そんな横山秀夫2.0的な作品、それが読み終わった後の印象ですね。
横山秀夫の作品に初めて触れたのは職場の人から借りてクライマーズハイを、その後自分でルパンの消息購入して読みました。
クライマーズハイは読み始めから一気に読破させるような力強さがあったのを覚えています。御巣鷹山に墜落した日航機墜落事故をテーマに、地方新聞社という立場から事件に向き合った話ですが、その濃密さと厚さと熱さは読み手を引き込む魅力がありました。
その後に読んだルパンの消息は、初期の作品ということもあってか、そういったある種の「横山らしさ」は薄い気がしました。クライマーズハイにみられるよな作者の経験や綿密な取材に積み上げられた「横山らしさ」が無く、さらにストーリーの展開には無理や粗さが目立つ、そんな印象でした。
それからしばらく横山秀夫の作品からは離れていたんですよ。横山が原作の映画「半落ち」とかは見ましたが、小説で横山作品を手に取ることはなかったですね。その理由の一つがクライマーズハイの圧倒的な質感で期待した分、ルパンの消息の軽さがなんだかがっかりしてしまったところかもしれません。
それに、2005年に出した「臨場」から体調を崩してこの「64」までの7年間、本を出していなかったのも新作が目に触れずに読もうというきかっけを失わせていた理由かもしれません。
そんなわけで久しぶりの横山作品なんですが、読んだ第一印象は冒頭に記述した感じ。物語の様々な伏線が最後の最後で一気に収束されていく、そんなストーリーなのにそれまでの伏線の話自体が濃厚で読ませる読ませる。ストーリー自体かなり長めですが、話にどっぷりつかってしまえば長さはさして気にならないですね。
今度テレビと映画それぞれで映像化されるそうでして、テレビはピエール瀧、映画は佐藤浩一が主人公とのこと。佐藤浩一ははまり役だと思いますが、ピエール瀧がどの程度この主人公の役をやり切れるかで彼の今後の役者人生に大きくかかわりそうな気もします。
最近文庫化され、ハードカバーで買うよりも安く読めるようになりましたので、是非一度読んでみてほしい作品です。